久々の宮沢賢治、本の紹介です。
表現がとっても良いですね。
きれいな文章です。
最初の部分は、こんな感じです。
わたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。
十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし
俸給もほんのわずかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で
好きなことでしたから、わたくしは毎日愉快にはたらきました。
そのころ、モリーオ市では競馬場を植物園にこしらえ直す
というので、その景色のいいまわりにアカシヤを植え込んだ
広い地面が、建物のついたまま、わたくしどもの役所の方へ
まわってきました。
わたくしは幸運にもひとりで住むことになりました。
そして、黒い革のかばんへすこしの書類や雑誌を入れ、
靴もきれいにみがき、並木のポプラの影法師を大股にわたって
毎日、役所へ出て行くのでした。
あのイーハトーヴォのすきとおった風、
夏でも底に冷たさをもつ青いそら、
うつくしい森で飾られたモリーオ市、
郊外のぎらぎらひかる草の波。
またそのなかでいっしょになったたくさんのひとたち、
ファゼーロとロザーロ、羊飼のミーロや、顔の赤いこどもたち、
地主のテーモ、山猫博士のボーガント・デストゥパーゴなど、
いまこの暗い巨きな石の建物のなかで考えていると、
みんなむかし風のなつかしい青い幻燈のように思われます。
では、わたくしはいつかの小さなみだしをつけながら、
しずかにあの年のイーハトーヴォの五月から十月までを
書きつけましょう。
宮沢賢治 ポラーノの広場









